労働審判・訴訟・仮処分

仮処分の申立てについて

従業員を解雇したら、地位保全と賃金の仮払いを求める仮処分を申し立てられました。この申立てはどういうものなのでしょうか。

● 保全処分とはどのようなものか
個別的労働関係に関する保全処分には、会社の財産が仮に差し押さえられる仮差押えと、賃金の仮払い等の何らかの仮の処分を命じられる仮処分があります。
例えば、解雇の効力が争われる場合、労働契約上の権利を有する地位を仮に定める「地位保全仮処分」と賃金の仮払いを求める「賃金仮払いの仮処分」の双方を同時に申し立てられることがあります。
保全処分が認められるためには、被保全権利の存在と保全の必要性が要件となります。上記の場合、労働者の権利の存在が確認できそうであり(被保全権利の存在)、生活に困っているなどの事情(保全の必要性)があると、貴社に対し仮に賃金を支払えと命じる仮処分が出ることになります。

詳しい解説

● 保全処分の手続はどのように進みますか?
例えば、解雇の効力を争う労働仮処分の場合、通常、両当事者の審尋が行われます。審尋とは、口頭または書面などの方式を問わず、当事者に陳述の機会を与えることをいいます。
この審尋においては、会社側は、相手方の申立てに対し、会社側の主張・疎明(裁判官に対し、確信までいかないものの、一応確からしいとの心証を与える立証活動)をする必要があります。
相手方からは再反論がされることが多く、1回で終わらないのが通常です。そのため、労働審判と比べると時間がかかり、申立てから保全命令の発令まで3か月から6か月かかることが多いです。
ですから、保全処分の場合、労働者側にも、労働審判と比べて時間も費用もかかるというデメリットがあります。それにもかかわらず、労働者が、早期の解決を期待できる労働審判ではなく、あえて従業員としての地位確認の仮処分などを申し立てるのは、その労働者に職場復帰への強いこだわりがある場合が多いといえるでしょう。

● 保全処分に異議を申し立てるとどうなりますか?
保全命令に対しては、裁判所に異議(保全異議)を申し立てることができますが、保全異議を申し立てても、原則として保全執行は停止しません(これに対し、労働審判については、異議を申し立てればその効力が失われますので、同審判に基づき強制執行されることはなくなります。)。
そのため、例えば、裁判所から賃金の仮払いを命じる保全命令が出されたにもかかわらず、会社が支払をしない場合、保全異議を申し立てていても、保全執行をされ、強制的に金銭を回収されてしまう可能性があります。
そして、労働者側からすると、仮処分とはいえ賃金が支払われてしまえば、それだけで目的を達成できてしまうことになります(それゆえ、こうした仮処分は「満足的仮処分」と呼ばれています。)。
ですから、会社側としては、仮処分に至るまでの審尋で、労働者の権利が存在しないことを主張し、労働者側による疎明を阻止しなければならないのです。
この際、専門家がいない状態で準備することは大変困難であり、有効な反論主張・疎明をするためには、やはり弁護士に相談することをお薦めします。